No.68 権利範囲:数値範囲を含む請求項では、その範囲から外れると文言侵害だけでなく、均等侵害も認められにくい。
判例No. 68 令和6年(ネ)第10026号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件
権利範囲 数値範囲を含む請求項について、その数値範囲から少しでも外れた数値の製品や方法は、文言侵害が成立しないだけでなく、均等侵害にもならない可能性が高い。
ただし、個々の具体的案件毎に判断が異なる可能性もあると考えます。
以下は、上記判決に関する独自の見解です。
1.実務上の指針
本判決を考慮すると、特許の請求項に数値範囲を記載した場合、この数値範囲から少しでも外れた製品や方法は、基本的に、文言侵害だけでなく均等侵害にもならない可能性が高いと考えます。
そのため、必要が無い場合には、請求項に数値範囲を記載しないのがよいと思う。
また、請求項に数値範囲を記載する必要がありそうでも、できるだけ数値範囲に代わる表現を記載する方がよさそうに思う。例えば、「第1部材の直径~よりも小さい直径」、「~を可能にする温度」、「肉眼で識別可能な大きさ」のような表現を請求項に記載し、明細書において、補足的に、その記載を定義し、その数値範囲の例のいくつか挙げておくことが考えられます。
2.判示事項の概要
(均等論の第1要件について)
本件発明に関する請求項の数値範囲には臨界的意義がないので、数値範囲は発明の本質的部分ではなく、したがって、均等論の第1要件を満たす(なお、前審の地裁では、数値範囲は、発明の本質的部分であるとして、均等論の第1要件を満たさないとされ、その結果、均等侵害に該当しないとされています。結論は、前審と本判決とで同じです)。
(均等論の第5要件について)
請求項における数値範囲は、出願人が自由に定めることができ、被告製品の数値699.91848も含まれるように請求項において数値範囲を定めることができたにもかかわらず、そのようにせず「700以上」としているので、原告(本件特許の出願人であり権利者)は、被告製品の数値を意識的に除外したものと認められる。
よって、均等論の第5要件を満たさないので、均等侵害が成立しない。(なお、文言侵害も成立しないとされています)。
次の記載は、上記判決文からの関連部分の抜粋です。
上記判決文からの抜粋:
『控訴人が特許請求の範囲において分子量を「700以上」とする数値範囲を定めたということは、「700以上」か「700未満」かという線引きをもって特許発明の技術的範囲を画し、下限値「700」をわずかでも下回る分子量のものについては、技術的範囲から除外することを客観的、外形的に承認したと認めるのが相当である。』
3.均等論の補足
均等論は、特許請求の範囲に文言上含まれない技術でも、実質的に同じであれば、均等侵害が認められ、その発明が保護されるものです。最高裁判決(ボールスプライン事件:平成6年(オ)第1083号)により、均等侵害成立のための以下の第1~第5要件が示されています。
第1要件:
特許発明において対象製品と相違する部分が、特許発明の本質的部分ではないこと。
第2要件:
上記の相違する部分を、対象製品における対応部分と置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の効果作用を奏すること。
第3要件:
上記のように置き換えることが、対象製品の製造時において当業者が容易に想到できたこと。
第4要件:
対象製品が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一ではなく、公知技術から容易に推考できたものではないこと。
第5要件:
対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がないこと。
弁理士 野村俊博
