No.67 権利範囲 請求項の構成要件の限定解釈を避けるための工夫

判例No.67 令和5年(ワ)第3375号 特許権侵害差止等請求事件(庇事件)

権利範囲 請求項の構成要件の限定解釈を避けるための工夫

以下は、上記判決に関する独自の見解です。

明細書において発明の解決課題を複数記載する場合には、発明の目的を例えば「本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決できる装置を提供することを目的とする」のように記載する。

1.判決の独自解釈

請求項1の構成要件が、明細書に記載された複数の課題のうち特定の課題を解決できる構成に限定して解釈されました。

その結果、請求項1に係る発明の技術的範囲に被告製品が含まれないと判断されました。

詳しくは、次の通りです。

請求項1の構成要件「庇板の開放された前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている縦板部」について、当該当接部分と、「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている」部分との位置関係については、当該構成要件の文言からは一義的には明らかでない。
そこで、明細書を考慮すると、本件発明は、庇の全長が必要以上に長くなるなどの従来の庇の問題に着目して小型化 と構造の簡易化を実現し、保守、点検に手数を要さない庇を提供することを目的としており、これらの目的を達成するために上記構成要件が採用されていると解される。
そうすると、「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている」部分と、「庇板の開放された前端面に当接され」た部分とがいずれも備わっているが、両部分が離間して存在し、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面が雨水を下方へ導くガイド面」となっていない被告製品は、本件発明の目的の一部(庇の小型化や構造の簡易化)を達成しないので、上記構成要件を充足しない。

2.実務上の指針

このような解釈がなされないように、明細書において発明の解決課題を複数記載する場合には、例えば次の記載Aのように、発明の目的を記載することが考えられます。

記載A:

「本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決できる装置を提供することを目的とする。」

 例えば、特許3276362では「本発明は、このような課題の少なくとも一部を解決できる通信システム制御処理方法を提供することを目的とする」と記載されています。

 このような記載Aにより、上記判例のような解釈を避けることができると思う。すなわち、複数の課題のうち特定の課題や全ての課題を解決できる構成に発明が限定して解釈されない可能性が高くなると考えます。

3.補足:補正を柔軟にしやすくすための記載

 なお、明細書の記載に関して、補正を柔軟にしやすくすために、次のような記載Bを明細書に含ませておくことも有益と思う。

記載B:

「上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲内で、または、本明細書に記載した効果の少なくとも一部が得られる範囲内で、特許請求の範囲および本明細書に記載された1つ又は複数の構成要素を省略可能であり、または、特許請求の範囲および本明細書に記載された複数の構成要素の任意の組み合わせが可能である。」

 記載Bにより、この場合には、出願後に、必要に応じて、請求項における余分な構成要素を削除したり、構成要素を変更する補正がしやすくなると考えます。

弁理士 野村俊博

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